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武器としての読書(よく読む本)

Memo, Book10 min read

忘れること

あなたは本を読むとき,その内容をどこまで覚えているだろうか.
あるいはこう言い換えてもよい.
あなたは本を読んでその内容を忘れることをどう思うだろうか.

というわけで,ひとりアドベントカレンダーの 5 日めは「武器としての読書」と題して 定期的に繰り返し読み,読むことで自分を empower するような本について書く.
なお,読書については 1 エントリーで書ききれないので複数日,複数テーマにまたがって 書いていく.

人間は忘れる生き物,というか,覚えていることより忘れてしまうことのほうがはるかに多い 生き物なので,「いかにして覚えておくか」についてまじめに考えるのはなかなかつらい.
だったら,いっそ開き直って「定期的に思い出す/身につける」方法を考えたほうが筋がよい.
僕の場合,いくつか定期的に読み返す本があって,それがツール的に人生に作用する.すなわち, いつもは忘れているようなこと,考え方を定期的に思い出すための方法だったりする.

そういうわけで,定期的に読み返す「ツール」としての本を数冊紹介する.1
なお,たぶん僕以外にはまったくなんの参考にもならないリストになってしまうことを最初に お断りしておく.

読書について / ショーペンハウアー

たぶん,高校生くらいの文学かぶれが一度は夢中になる本ランキングの常連だとおも.
この掌篇の主張はおおむね以下に収斂する.

  • くだらないものは読むな
  • 書いてあることを鵜呑みにしているとバカになる

とはいえ,全編を貫くアイロニーと直截的な物言いも含めてこの篇の魅力と いうべきで,それは読まねばわからない.

ともすればすぐに多読に走りがちな自己の戒めとしてかれこれ 20 年以上 読み継いでいる.

本の読み方 スロー・リーディングの実践 / 平野啓一郎

速読を勧める本は多いが,だいたいまやかしの類なので見るにも値しない.
本書は逆で,本はゆっくり読め,じゃないと損だし,読書はもっと楽しいものであるよと いった趣旨のものだ.もうこれを言ってもらえただけで救われる読書者も多いんじゃなかろうか.

作者は「日蝕」で芥川賞を大学在学中に受賞し,最近は「マチネの終わりに」が映画化もされた 平野啓一郎である.何年か前のイベントで本にサインもらったのが個人的な宝物だけどそれは措く.

本書は前半でスロー・リーディング すなわち 遅読 の効能ややり方を概説的に説明する.後半は 実際にいくつかの作品の一部を引用して,作者なりの読み解きを披瀝する という構成をとっている.
とくに後半の読み解く過程がなんというか,非常にスリリングである.

とりあげられているのは漱石,鴎外,カフカ,三島などどちらかというと古典に属するようなものが 多いが,それが実生活上の一般的な書籍,文章に展開できないわけではない.
本書で語られるのは,最終的にいかに本を楽しむかについてのいくつかのヒントだからである.

僕は学生時代はとにかく量を読むことに重きをおいていて,あまりよく理解できなくても 「読んだ!」と次に進みがちなタイプだった.本書ともっとはやく出会っていて, 希くば,実用的な方法として多く学べていればなぁと思う.

理科系の作文技術 / 木下是雄

僕のブログはだいたい構成がぐちゃぐちゃなので,その分際で「理科系の作文技術」を紹介することに ばつの悪い思いはありつつも.

「くだらない本は読むな」「本はゆっくり精緻に読め」の次は「文章はわかりやすく簡潔に書け」という わけで本書の登場である.

ある程度の強度をもった文章を書くエッセンスが本書に凝集されていて,とくにパラグラフについての 章は必読.強度とは,文章のおかれる状況に応じて重要な変数が変わるだろうが,例えば説得力だったり 論理性,簡潔さ,はたまたきらびやかさであったりにせよ,文章がなにかを伝えようという種類のもので ある限り,本書の主張はまったく普遍なものと思われる.

後半は理系文書の書き方の方法論に寄っていくが,なに参考になるところだけ読めばよいのさ.

罪と罰 / ドストエフスキー

人間の愚かしさを識りたいならドストエフスキーを読め,というわけで「罪と罰」を.
古典,とくに長編小説を定期的に読むと人生が少し豊かになるような気がする.ふだんの仕事や生活と 離れた小説世界を渉猟することで人によっては旅をするのと似たような気持ちになれたりするかもしれない. とくに昨今の COVID-19 事情も加味すると,家にいながらにして,異国を旅できるというのはやらない理由がないだろう.

ところで,小説は一読ですべてを味わうというのはどだい無理な話で,何度も読み返すことで得る気づきや 違った視点というものがある.気に入った映画や漫画を読み返すのと同じ,というか.
ドストエフスキーは多様な登場人物が物語の各所で議論したり暴れまわったりするのが持ち味で, すなわちこれは何度も違った読み方がしやすい,というところでもある.

また,いくつかの出版社から異なる邦訳がでていたりするので,訳同士を読み比べるといった 贅沢なことも楽しめる.

しまいに

技術書っぽいものがちっとも出てこないのがご愛嬌だが,「達人プログラマ」「プログラミング作法」「CODE」なんかは よさそうに思われる.
だいぶ読書・文章術の実践よりに偏っているのは,いわゆる神は細部に宿るを信奉しているためだ.語るべきことが あれば,あと補うべきはレトリックの問題である.そして,人はそういうところはよく忘れる.けれども重要なのは レトリックであることを格言は戒めている.

Footnotes

  1. そういえば,中学のときに一週間かけて旧約聖書を読破し,恩師に報告したときに 「それは一生かけて読むべき本であって,君のは読書したとは言わない」と言われたが,蓋し考え方は同じことであろう.